
ゲシュタルトネットワーク関西では、大阪市内で、アダルトチルドレン(Adult Children:以下AC)の生きづらさを克服するための個人カウンセリング・セラピー、グループセラピー(ゲシュタルト療法)を行っています。
アダルトチルドレンとは
「アダルトチルドレン」という言葉は、医学的な診断名ではありません。アダルトチルドレンという概念は、1970年代にアメリカで、アルコール依存症の親のもとで育った子供たちの中に、成人してから生きづらさや人間関係の問題に悩んでいる人が多くいるところから提唱されてきました。
アダルトチルドレンとは、子どもの頃に、家庭内が安心できる環境ではなく、いくつものトラウマ(心的外傷)で傷ついたまま大人になった人たち、といった意味の言葉です。
子どもは、自分が育つ家庭環境の中で、生きていく上での基本的な価値観や、人間関係、コミュニケーションを学んでいきます。
しかし、家庭にアルコールや暴力(DVやモラハラなども含まれます)が頻繁に起こり、家族関係がちゃんと機能しない環境で育つと、適切な考え方や人間関係を持てずに成長することがあります。
たとえば、他者と親密な関係を築くことに恐れを感じる、人との距離が上手に取れない、自分に自信が持てない、嫌なことを嫌と言えない、といった対人関係のパターンを身につけてしまうのです。
いつも両親の口論や暴力が絶えないような環境で、親の顔色をうかがったり、親の期待に背いてはいけないと過度に自分を抑制していると、自分自身の本当の感情がどこにあるのか、何を感じているのかが分からなくなってしまいます。
自分を後回しにして、「誰かの期待に沿って生きる」というライフスタイルが身についてしまうと、常に「良い子」で居続けなくてはいけません。
でもそれは、いつも「自分らしさ」や「自分の気持ち」が分からずに、罪悪感や孤立感で苦しんでしまうような生き方につながります。
「私は自分の人生を生きていない」
「もっと自分らしく生きていきたい」
「自分の感情を感じて、自分を大切にして、人と関わりたい」
こんなふうに感じながら、生きづらさの理由を探る中で、「もしかして、私はアダルトチルドレンと言ってもいいのかもしれない」と考えて、カウンセリングやセラピー、自助グループなどを求める人もいます。
アダルトチルドレンという言葉は、医者やカウンセラーが誰かを診断したり、命名するためのものではなく、本人が自分の育ってきた家庭環境や家族関係、父親・母親との関わり方を振り返って、自身を理解し、その生きづらさから回復していくための手がかりのようなものだと考えられます。
機能不全家族
アルコールや薬物への依存、DVなどの家庭内暴力、児童虐待(これには心理的、身体的、性的虐待やネグレクトが含まれます)などによって、家庭が子供にとって安心・安全な環境ではないという状況は、「機能不全家族」と呼ばれます。
一見、ちゃんと機能しているように見えても、子どもに対して過剰な期待を押し付ける、意に沿わないと無視をするといった親子関係のあり方が、子どもにとって深い傷つき体験となることもあります。
親の病気や経済的困難などで、家庭が適切に機能しないこともあるでしょう。
こうした機能不全家族で育った人たちも、上で述べたような特徴を持って、生きづらさを抱えていることがあり、ACOD(Adult Children of Dysfunction family)と呼ばれるようになりました。
こうした家庭の子どもは、両親や家族を支えるために、期待される役割を演じて「良い子」として振る舞おうとします。
「子は鎹(カスガイ)」と言われますが、あまりにカスガイに負担がかかり過ぎて損なわれてしまうこともあるのです。
こうした対人関係のパターンは、子どもが機能不全家族の中で生き抜いて適応していくために、また、親やきょうだいを支えるために、必要だったことなのです。
ところが、思春期・青年期を迎えて、家庭から自立していく段階になっても同じ対人パターンを繰り返してしまうと、人間関係や人生に行き詰まってしまいます。
成人してからの友人関係や恋人、配偶者との関わり、職場の人たちとの人間関係で、適切な境界線を引くことが困難になり、「良い子」を続けてしまうことで、自分の感情が分からなくなってしまうことがあります。
機能不全家族尺度(DF尺度)を紹介しておきます。
機能不全家族尺度(DF尺度)
- 親がアルコールなどの依存にとりつかれている家庭
- よく怒りが爆発する家庭
- 冷たい愛のない家庭
- 性的・身体的・精神的な虐待のある家庭
- 他人や兄弟姉妹といつも比べられる家庭
- あれこれ批判される家庭
- 期待が大きすぎて何をやっても期待にそえない家庭
- お金・仕事・いい学校だけが重視される家庭
- 他人の目を気にする表面だけ良い家庭
- 親が病気が地・留守がちな家庭
- 親と子の関係が反対になっている家庭
- 両親の仲が悪い・けんかの絶えない家庭
- 嫁姑の仲が悪い家庭
(はい:2点、どちらともいえない:1点、いいえ:0点)
笹野 友寿、塚原 貴子「大学生の精神保健に関する研究 : 機能不全家族とアダルト・チルドレン」川崎医療福祉学会誌、8号1巻pp47-53,1998
アダルトチルドレンの特徴
日本にアダルトチルドレンの概念を紹介した斉藤学の『アダルト・チルドレンと家族』(学陽書房、1996)によると、機能不全家族で育ったアダルトチルドレン には、次のような特徴が見られるとされます。
- 自分の考えや行動が「これでいい」との確信が持てない
- 物事を最初から最後までやり遂げることが困難
- 本当のことをいったほうが楽なときでも嘘をつく
- 自分に情け容赦なく批判を下す
- 楽しむことがなかなかできない
- まじめすぎる
- 親密な関係を持つことが大変難しい
- 自分には、コントロールできないと思われる変化に過剰反応する
- 常に、他人からの肯定や受け入れを求めている
- 自分は、人とは違うといつも感じている
- 常に責任をとりすぎるか、責任をとらなさすぎるかである
- 過剰に忠実である
- 衝動的である。他の行動が可能であると考えずに1つのことに自らを閉じ込める
前項で上げた論文から、アダルトチルドレンの尺度も紹介しておきます。なんとなく言葉がこなれていない気がしますし、最後の項目長すぎだろうと思うのですが。上の斎藤先生の訳の方がわかりやすいですね(どちらも、ジャネット・G. ウォイティッツ『アダルト・チルドレン―アルコール問題家族で育った子供たち』金剛出版 、1997、が元になっています)。
アダルト・チルドレン尺度(AC尺度)
- 私は正しいと思われることに疑いを持つ
- 私は最初から最後まで、ひとつのことをやり抜くことができない
- 私は本音を言えるようなときに嘘をつく
- 私は情け容赦なく自分を批判する
- 私は何でも楽しむことができない
- 私は自分のことを深刻に考えすぎる
- 私は他人と親密な関係を持てない
- 私は自分が変化を支配できないと過剰に反応する
- 私は常に承認と称賛を求めている
- 私は自分と他人は違っていると感じている
- 私は過剰に責任を持ったり過剰に無責任になったりする
- 私は忠誠心に価値がないことに直面しても、過剰に忠誠心を持つ
- 私は衝動的である。行動が選べたり結果も変えられる可能性がある時でも、お決まりの行動をする。その衝動性は、混乱や自己嫌悪や支配の喪失へとつながる。そして混乱を収拾しようと、過剰なエネルギーを使ってしまう。
(はい:2点、どちらともいえない:1点、いいえ:0点)
笹野 友寿、塚原 貴子「大学生の精神保健に関する研究 : 機能不全家族とアダルト・チルドレン」川崎医療福祉学会誌、8号1巻pp47-53,1998
この論文では、機能不全家族尺度が4点以上、アダルト・チルドレン尺度が12点以上のときには、アダルトチルドレンを念頭に置いて、精神科医や臨床心理士が面接をすることが望ましい、とありました。
ただ、あくまでひとつの「目安」として捉えておく、というくらいがいいように思います。
「毒親」と機能不全家族
「毒親」とは、アメリカの精神科医のスーザン・フォワードの『毒になる親』という著作から誕生した言葉です。機能不全家族を招いている親のことを「毒親」と呼ぶことがあります。
スーザン・フォワード『毒になる親』(講談社、2001)
「毒親」とは、ちょっとドキリとするような言葉ですね。
NHKの「クローズアップ現代」でも「毒親って!? 親子関係どうすれば・・・」というタイトルの特集で取り上げられたことがあります。
「毒親が原因で大人になっても生きづらい」という声がネットにあふれている。毒親とは、過干渉や暴言・暴力などで、子どもを思い通りに支配したり、自分を優先して子どもを構わなかったりする「毒になる親」のことを言う。番組では、「毒親」に悩む人たちに密着。親から解放され、自分を取り戻すにはどうすればいいのか。そして、子どもに毒親と言われないためには。現代のゆがんだ親子関係を紐解き、解決策を探る。
NHK クローズアップ現代「毒親って!? 親子関係どうすれば・・・」
毒親の影響から抜け出すにはどうすればいいのか、毒親の連鎖(毒親に育てられた子どもが、成人して家庭を持ったときに同じように振る舞ってしまうこと)を防ぐには、といったことが取り上げられています。
現実の親との関係や距離感を振り返って、適切な境界線を引くことや、場合によっては関わりを断つことが必要な場合もあります。
あるいは、「毒親」と現実の親を区別して、子ども時代に取り込み内面化された「親のイメージ」であると捉えて、鵜呑みにしてきたことを外に出していくことが適切な場合もあるでしょう。
アダルトチルドレンのタイプ
アダルトチルドレン には、いくつかの「タイプ」があると言われています。
アメリカの心理療法家のウェイン・クリッツバーグは『アダルトチルドレン・シンドローム―自己発見と回復のためのステップ』(金剛出版、1998)という本で、「6つの役割」を提唱しています。
これは、あくまでタイプとして提唱されたものなので、次の中の複数の役割を担っていたという人もいるでしょうし、ここには当てはまらないという方もおられると思います。
(1)ヒーロー(英雄)
ある特定の分野で家族や周囲から高い評価を受け、期待される子どもです。子どもは、その期待に答えるために常にがんばり続けなくてはいけません。期待に応えられないと見捨てられてしまうと感じて、素直に自分を表現できなかったり、挫折した後に問題が生じることもあります。
(2)スケープゴート(いけにえ)
家族の中で「ダメな子」として、否定的な役割を担わされている子どもです。非行などの問題行動に走ったり、「できの悪い子」をすることで、無意識的に家族の不満を引き受けて、バランスを保とうとしています。
(3)ロスト・ワン(いない子)
荒れている家庭の中で、目立たないように身を潜めている子どもです。いつも家族から、ほとんど「いない子」として忘れられています。
(4)プラケーター(慰め役)
家族の中で落ち込んでいたり、傷ついた人を慰めて、助けようとするカウンセラーのような役割の子どもです。自己犠牲的に家族の世話をして、支えています。自虐的世話役、といった役回りを演じているので、いつも自分自身のことは後回しにしてしまいます。
(5)クラウン(道化)
家族が暗い表情にならないように、いつもおどけたり、冗談を言ったりして、ピエロのような役割を演じている子どもです。一見、明るい子どもに見えますが、家族の顔色を常にうかがって、ピリピリとした雰囲気にならないように気を配って、疲れてしまいます。
(6)イネイブラー(支え役)
慰め役や道化と似ていて、家族に奉仕し、支えることで、家族の機能を保とうとしています。子どもなのに、親のような役割をになっていることもあります。
どの役割も、「自分がいないと家族が崩壊してしまう」「私ががんばって支えるしかない」と「共依存」的な関係を築いてしまうことが特徴です。家族にコントロール(支配)されつつ、自分もコントロールしようとして、「嫌いだけれど離れられない」といった関係性を作りやすいと考えられます。
アダルトチルドレンと精神科・心療内科その他の疾患(ACE研究との関連から)
アダルトチルドレンは、医学用語や診断名ではないと書きましたが、AC的な性格要因や対人関係のパターンに起因して、精神科・心療内科的疾患が生じることもあります。
アメリカの国立研究機関CDC(Centers for Disease Control: 疾病予防管理センター)で行われた疫学的な研究「ACE研究(ACE study)」では、「逆境的な子ども時代の体験」(Adverse Childhood Experience)が、後の健康上のリスクに大きく影響していることが明らかにされています。
ここで「逆境的な子ども時代の体験」として挙げられているのが、「虐待」(心理的、身体的、性的虐待)や、「家族の機能不全」(アルコールなどの物質中毒、精神疾患、DVなどの暴力、犯罪行動)などの項目です。これらはいずれもアダルトチルドレンを生み出す家庭に見られることがある逆境的体験です。
この研究で、逆境体験の数(ACEスコ ア)が0の人に対して、4位上の人は、慢性疾患その他の身体疾患(糖尿病や脳溢血、ガン、自己免疫疾患など)や精神疾患(うつ病や不安障害、パーソナリティ障害など)の発症率が高く、肥満や薬物使用、アルコール依存、自殺未遂、暴力問題の加害者・被害者になるリスクが何倍も高いだけでなく、平均寿命が20年短いということが明らかにされています(参考文献)。
アダルトチルドレンからの回復
アダルトチルドレンからの回復には、個人カウンセリング(心理療法)や自助グループ、家族療法、グループセラピーなどの支援が助けになります。医学的な問題がある場合には、精神科や心療内科などで適切な治療を受けることも必要でしょう。
できることならば、これらのサポートを複数、組み合わせることが望ましいと考えられます。
アダルトチルドレンの自助グループ
アダルトチルドレンは医学的な概念や診断ではないので、医療以外の民間療法や、自助グループなどでサポートされることもよくあります。
自助グループとは、同じ問題を抱える人たちが自主的に集い、仲間と出会い、経験や知識などを分かち合うことでお互いを支えたり、成長することができる場所です。
もともとは、アルコール依存症に悩む人たちが結成したアルコホーリックス・アノニマス(AA)から始まっています。現在では薬物やギャンブル依存、アダルトチルドレンなど、さまざまな自助グループが各地で開催されています。
JUST(特定非営利活動法人日本トラウマ・サバイバーズ・ユニオン)
ACODA(Adult Children of Dysfunctional Families Anonymous)
ACoA(Adult Children of Alcoholics)
などで、アダルトチルドレンやトラウマにフォーカスした自助グループを探すことができます。大阪や神戸、京都、奈良など、近畿圏で開催されているグループを探すこともできます。
AA(アルコホリークス・アノニマス)を参考にして作られたグループが中心なので、「12のステップ」などを用いて、「言いっぱなし、聞きっぱなし」の集いを開催しているところが多いと思います。
それぞれの団体や、地域のグループ、世話役の人柄、メンバーなどによって、合う・合わないといったことはあるので、詳細を問い合わせてみたり、一度、見学に行ってみるといいかもしれません。
アダルトチルドレンのカウンセリング・心理療法
「私はアダルトチルドレンではないか」といった主訴でカウンセリングや心理療法を活用される方はたくさんいます。
カウンセリング・心理療法にはさまざまなアプローチや考え方があります。
精神分析などの力動的な心理療法は、生きづらさや人間関係の問題、生育史における親との葛藤やトラウマなどの影響から回復していくことに役に立つでしょう。
パーソンセンタードのカウンセリング(クライエント中心療法)は、クライエントの成長や自分らしく自己一致して生きていくことに適していると思われます。
対人関係療法では、「過去の親との関係」には焦点は当てられませんが、現在の人間関係を健康的なものに変化させていくことにつながります。
認知行動療法は、非機能的な考え方(認知)や行動をより機能的にしていくことに有用です。
EMDRやSE(ソマティック・エクスペリエンス)など、トラウマの解消に焦点を当てた心理療法や、愛着障害(精神医学的な概念で、アダルトチルドレンに近いものだと言えます)のセラピーなどもあります。
「インナーチャイルド(内なる子ども)を癒す」といった、ニューエイジやスピリチュアルと近接したセラピー手法を用いるセラピストもいます(ゲシュタルト療法でも、エンプティ・チェアを使って、子ども時代の自分と対話することがあります)。
どのようなアプローチをとっても、自己肯定感や自尊心を高め、適切な人間関係や他者との適切な境界線(バウンダリー)を持ち、より生きがいを実感できる生活・生き方を築いていくといったことが重視されると思います。
アダルトチルドレンとゲシュタルト療法
ゲシュタルト療法は、個人セッションでも、グループでも行われています。その特徴から、アダルトチルドレンからの回復に寄与するところも大きいと思うので、少し詳しく紹介してみますね。
ゲシュタルト療法は、精神分析医のフレデリック・パールズとローラ・パールズ、ポール・グッドマンらによって創られた心理療法です。
「ゲシュタルト(gestalt)」とは、「まとまった」とか「全体性」といった意味のドイツ語です。ゲシュタルト療法は、人間は外界をバラバラの寄せ集めとしてではなく、意味のあるまとまりをもった全体として認識しているというゲシュタルト心理学の視点に基づいた心理療法です。
バラバラに見えていたものごと、あるいは相互に無関係だと思っていたことが、「こういう意味があったのか」と「全体性」をもって気づかれることがあります。
気づきのセラピー
ゲシュタルト療法は、この「気づき」(awareness)を重視したセラピーです。
何かに「気づく」ことは、動物の基本的なこころのはたらきです。ところが人間は、思考を発達させたため、「こういうものだ」「こうあるべきだ」という考えのフィルターが強く、目の前のありのままの現実や、自分の欲求がちゃんと見えなくなってしまうことがあるのです。
「あの人は私を嫌ってるに違いない」「怒ってるんじゃないか」「親の期待に応えなくてはならない」などと考えすぎて、相手のことや自分自身の気持ちがわからなくなってしまう、といった経験をしたことがある人も多いのではないでしょうか。
「今ここ」で「身体の声を聴く」
ファシリテーター・セラピストの手助けで、「今ここ」で起こっている現象や体験にありのままに気づくことで、滞っていた成長のプロセスが動き出す、そんなセラピーがゲシュタルト療法です。
「今ここ」の気づきを得るために大切なことのひとつに、「身体の声に耳を傾ける」ということがあります。
ゲシュタルト療法では、「心」と「身体」を別々のものと考えず、身体の声を聴きながら両者を統合していこうとします。身体の声とは、たとえば「なんかモヤモヤする」「ムカつく」「胸が痛い」「息が詰まるようだ」といったからだことばに表現されているように、「気持ち」や「感情」と同じことです。
アダルトチルドレンの人たちの多くは、身体の声を聴くことが少し苦手なようです。
なぜなら、「お腹が痛い」とか「おやつが欲しい」といった自分の身体的なニーズよりも、親や周囲の大人のニーズや期待に応えることで適応してきたからです。
そういう人たちが、より「自分らしく」「自分の感情に素直に」生きていくためには、まず自分の身体の声を聴くことが大切です。
「お腹がしゃべるとしたら、なんて言っていますか?」
「ギュッと握りしめた拳は何を言おうとしていますか?」
「涙が話すとしたら、何を伝えているでしょうか?」
ゲシュタルト療法では、こういった問いかけをファシリテーター(セラピスト)がすることがあります。
「未解決な問題(unfinished business)」を完了させる
アダルトチルドレンの人たちは、子ども時代、たくさんの「本当はこれがしたい」「あれが欲しい」「こう言いたかった」といった欲求が満たされないまま、あるいは飲み込んだまま大人になっています。
ゲシュタルト療法の考え方では、これは「未解決な問題(unfinished business)」がたくさん残っていて、それが現在の生き方や対人関係の問題に影響しているとされます。
セラピーの中でそのことに気づき、たとえば「言いたかったこと」を口にしたり、動作で表現することで、未解決な問題が完了すると、滞っていた感情や表現が動き出すことが多いのです。
「私が会社の上司にこれほどビクビクしているのは、上司が怖かった父親に似ているからだ」と気がついて、父親に対して言えなかったこと(例えば「もっと私を認めて」とか「そんなに怒らないで」)を表現してみると、上司に父親を重ねて過剰に怯えなくてもよくなるかもしれません。
無境界(confulence)の状態から、適切な境界線を引く
アダルトチルドレンの人は、本来、親が責任を追うところまで子どもが引き受けてきたという生育史から、他者との間の境界線が曖昧なことがあります。
ゲシュタルト療法で、パールズが「無境界(confulence)」と呼んだ状態は、「私」と「私でないもの」の間に境目がない、といった意味の概念です。
生まれたばかりの赤ん坊は、母親との間に境界線をもっていませんが、子どもが成長していくためには、自分と他者の違いを認識して適切な境界線を引いて自立していくことが必要です。
この自他の境界線が引けていないと、常に他者の顔色をうかがったり、他者の言うことを鵜呑みにしたりして、自分のニーズよりも無理をしてでも周りの期待に応えて生きていくことになります。
ゲシュタルト療法では、自分のニーズ・責任と他者のニーズ・責任をはっきりと区別して、境界線を引いていくことを大切にしています(これは、共依存的にならない、ということでもあります)。
身体の声を聴いて、未解決の問題を完了させるということは、自他の境界線を適切に引きなおすといったワークでもあるのです。
家族連鎖のセラピー
ゲシュタルト療法は、家族関係を扱うのに非常に適しています。ゲシュタルト療法でしばしば用いられるエンプティ・チェア(空椅子の技法)で、家族関係を表現してみると、「私の悩みの根っこには、こういった家族関係があったのか」と気づくことがあります。
日本では、エンプティ・チェアは座布団が用いられることが多いのですが、「父親はこの位置」「母親は真ん中」「祖母はこの辺り」「私はここ」と置いていくと、未解決の愛情のもつれや、世代間連鎖の仕組みが目に見えてわかりやすくなります。また、それぞれの座布団に座ってみることで、「母親から家族は、こう体験されていたのか」といったことを、まさに「身をもって」知ることができるのです。
これは、育ってきた家族の関係に影響を受けて悩んでいるアダルトチルドレンの人たちにとっても、とても効果的なアプローチだと思います。
百武正嗣『家族連鎖のセラピーゲシュタルト療法の視点から』(春秋社、2012年)
大阪のグループ・セラピー(カウンセリング)のご案内
ゲシュタルトネットワーク関西では、大阪市内の会場で毎月「気づきのワークショップ」を開催しています。
グループで行うゲシュタルト・セラピーでは、安心できる場で、これまでしてこなかった表現や他者との関わり方を実験的にためすことができます。
他のメンバーのワークを間近で見たり、ときに参加することで、他の人の人生からの気づきや知恵をわかちあえることもあるでしょう。
また、個人カウンセリング・セラピーも実施しています。
大阪府、京都府、兵庫県(神戸や西宮)、奈良県、和歌山県、滋賀県など、近畿各地からの参加者がいます。
どうぞお気軽にお問い合わせください。